Kuniyasu Sakaizawa
境澤邦泰

絵画を見るために美術館やギャラリーを訪れる人が、絵画が架けられている壁をわざわざ見たりしないが、壁がない展示空間など存在しない。壁はいつでもキャンバスの裏に、絵画面と並行して存在し、絵画そのものを物理的に支えるいわばもう一つの支持体であり、特に額縁があまり使われなくなった現代においては、絵画と絵画でない場所を区別し、絵画の境界を確定する役割を担う。白い壁は絵画の存立を保証する制度となり絵画はその批評的役割を失った。しかしここで、別の可能性を模索することはできないか。文字通りの支持体であるキャンバスの中に記される痕跡によって構築される絵画の内的な関係を、もう一つの支持体である壁にまで拡張することによって、絵画が壁に従属するのではなく、壁と絵画が共にある状況を想像することはできないだろうか。布（キャンバス）をモチーフとして支持体（キャンバス）へ描き続ける境澤の制作プロセスを議論のたたき台とし、布と壁という二つの支持体と、そこに生じる絵画のあらたな関係を模索する場としたい。